大人の塗り絵の効能
大人の塗り絵って流行ってますよね。どなたが仕掛けたのか、
本屋さんに行くとだいたい平積みのコーナーができています。
ここ数年たくさんの出版社さんから様々なタイプの塗り絵が発売されていて、
風景画、仏像や曼荼羅、犬・猫等写実的なもの、完成すると地図になるもの、
昔ながらの女の子の夢系(お姫様とドレス、憧れのマンガの主人公など)、
変わり種では真っ黒な画面を削っていくと色鮮やかな模様が現れるというもの
(これは確か学研さんだったかな)、ご丁寧に画材までついていたりするものもあり。
今や100均にも売っていて、一時期の流行りものというよりかすでに定番になってきている感があります。
商品ラインナップを見ると、基本的に女性をターゲットにしたものが多いと思うのですが
「今なぜ塗り絵なんだろう?」と考えてみました。
私は趣味でイラストを描いているのですが、絵を描くということは大抵(これはモノクロと決めない限り)、
最後に「塗り」という作業が入って来ます。色を塗るには画材が必要で画材には様々な種類があり、
それぞれに持ち味や使い方が違うので多少の慣れが必要です。
また「色を塗る」ために「準備と後片付け」という工程もあります。
例えば水彩であれば紙がデコボコにならないため水張り等の下準備をしたり、筆と絵の具とパレットや、
筆を洗ったりするためのバケツと水に雑巾なども必要だし、色鉛筆やパステルだとしても練り消しや
フィキサチーフ(色の定着スプレー)、ティッシュ等がいるようになります。
指でこすったりもするので手が汚れるし、画材は消耗品なので当然使えば減って来ます。
減るのは頻繁に使う色なので、小まめに補充しておかないといざ次に使おうと思ったとき
「肌色系の数色が切れてるので中断…」という残念なことになります。
コピック(アルコールインクマーカー)などは数百色もあるので久々に使おうとするとそんなことがよくあります。
ざっと読んで「めんどくさ」と思われた方が多いのではないでしょうか。
ひとえに色を塗るということは、結構面倒な作業なのです。
それを諸々解決してくれたのが「デジタル彩色」なのですね。色は自由に作れるし、
ネットで拾った画像から色をもらうこともできる。PC立ち上げてペンタブを出すだけなので、
準備と後片付けはほぼ不要。手も机も汚れない。画材の補充も要らない。なんだ、メリットしかないぞ!!
…そんなわけで私も最近デジタルで絵を描くことが増えたけど、やっぱり何か味気ないのですよね。
たまにどうしてもアナログ塗りをしたいなぁ…と思うことが結構あるのです。
しかしわざわざ面倒なことをする「塗り絵」はなぜ流行るのでしょう…?
アナログの良さはやはりみなさん「温かみ」であるといいます。紙の上を滑る鉛筆の音や手に伝わる書き味。
夢中になって手を動かしているとどんどんと色が鮮やかになってきて、表現したかった世界が現れてくる。
丁寧に塗っていてもたまにはみ出したりにじんだりする手作業ならではの味。一発真剣勝負でやり直しが効かない
という適度な緊張感…そして全て塗り終わったときの達成感。何かスッと心が軽くなっている気がする。
…塗り絵ってもしかして「禅」みたいなものなんじゃないかなぁと個人的には思っています。
だからこれは合理的なデジタルより面倒なアナログの作業が適している。
絵の具のにおいがしたりパステルの粉で手が汚れるという「五感を活用している感じ」がむしろ必要だから。
絵心があるなしではなく、童心に帰って、心のおもむくまま、誰にも邪魔されずひとりで、自分と向き合う。
塗り絵には現代に生きる人たちに必要なことがぎゅっと詰まっている。
アナログのイラストは大抵、ラフスケッチ→下絵→清書(ペン入れ)→消しゴムかけ→色塗り→ホワイト
という工程をたどるので、塗るまで割と長いのですが、思えば私もイラストを描いているとき
「塗りたいがために描いている」ような気がします。
これが今「大人の塗り絵」がたくさんの人たちに支持されているひとつの理由なのかなと考えました。
年末年始はまとまった時間が取れたり、ひとりで静かに自分と向き合ったりする「絶好の塗り絵チャンス」だと
思います。
しばらく塗り絵から遠ざかっていた人も、そんなのやったことがないという人もぜひチャレンジしてみては
いかがでしょう。
ふっと心が軽くなるかもしれませんよ。